お代官と越後屋日記 5第5話 逆転の兆し夏も終り秋風の香りが漂い始めたある日、 尾田川は関西藩藩主、澤口純一朗に呼ばれていた。 「白川主水を関西藩に移動させる。後任には誰が良いか?」 澤口は飄々としてあまり感情を表に出さないタイプである 白川の事をたいへん気に入っていた。 以前から何度か白川を大阪へ呼び寄せようとしたのだが 尾田川の前任者は白川の移動を認めなかった。 澤口は尾田川と白川が合わないことを知り 今がチャンスとばかりに尾田川に移動を切り出したのだった。 この事は尾田川にとって願ってもないことだった。 「しばらく考えさせてください」 尾田川は瞬間的に後任候補の顔が浮かんでいたのだが 直ぐに返事をしては単純な奴と思われてはいけないと わざと返答を延ばした。 「中田じゃ中田」 思わず声が出そうになる自分を抑えるため 早々に藩主の部屋を退出する事にした。 |